平成29年度新人賞
※プロフィールは受賞時の情報を掲載しております
京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻(油画)修了
表現する場としての支持体をキャンバスから黒いベルベットに替え、暗闇という無限遠を感じさせる空間を生み出す。その技法は自らの負の記憶を一般化することに資し、人類の暗い歴史的遺産を呼び起こすような装置としての絵画を創出する舞台となる。また表現技法としては、絵の具への雲母(キラ)の混入や貴金属のコラージュ等を通じて、ポップな画像をより鮮やかに際立たせた。その華やかな表現が舞台としての暗闇を一層際立たせ、作家独自の夢幻的な世界観を導き出した。
主な個展は、2013年、2015年、2016年、ギャラリー16(京都)で開催している。グループ展は、2014年「奈良・町家の芸術祭はならぁと こあ」 旧たき万旅館生駒宝山寺参道(奈良)、2014年、2015年「京展」京都市美術館(京都)、2015年「第24回奨学生美術展」佐藤美術館(東京)、2016年「VOCA2016現代美術の展望―新しい平面の作家たち」上野の森美術館 (東京)、2017年「25人の作家たち~佐藤国際文化育英財団25周年記念 奨学生選抜」佐藤美術館(東京)など多数。また2015年に第7回絹谷幸二賞をしている。これまでの主な作品は京都市美術館(京都)、京都銀行(京都)、第一生命保険株式会社(東京)に収蔵されている。
2017年10月よりフランス・パリを拠点に研修を開始。「自身の負の記憶と人の闇を混淆した美」という根本命題を実現させる。パリを「人の闇と美の融合」が果たされた土地と捉え、観察と考察、ドローイングを重ねることによって新たな表現を獲得することを目指す。また、西洋の重厚な闇を取り込むべく、近隣諸国の様々な人類の遺産にも目を向ける。
2015 | 第7回絹谷幸二賞 |
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2015 | 京展2015 京都市美術館賞 |
2016 | VOCA展 奨励賞 |
「うきよの画家」
私は2017年から1年間、五島記念文化財団(現東急財団)の助成を得てパリに滞在した。パリを滞在の地に選んだのは美と醜、光と闇が凝縮された土地ではないかと考えたからである。
滞在初日、空港から契約したアパートに向かう道中、大規模なデモに巻き込まれた。集まった人々の怒号、彼らが投げ捨てた大量のゴミ、それらから発せられる臭気を体感し、日本では感じ取ることができなかったある種の熱の渦の中に自分はいると思った。翌日、マカロン屋や高級な洋服や装身具を売る店先にへばり付いたゴミや汚物、ショーウインドを覗く着飾った観光客と物乞いをする路上生活者といった、貴賎際立つ状況や事物がたちが違和感なく景色に溶け込んでいるのを見て、パリを滞在地に選んだのは正解だったと確信した。
パリを中心とした欧州の美術館、ギャラリー、建築物を取材しその壮麗さに魅了されたことも、路上で暴言を吐かれ恐喝されたことも、全ては作品を制作する為の糧になった。帰国後、パリで取材をしたスーパーを舞台とした《審判》、滞在中から現在まで制作を続けている、路上のホームレスや地下鉄に居合わせた人々といった市井の人々をモチーフとしたポートレートシリーズ、帰国して改めて日本の原風景に関心を寄せて描いた《まつろわぬもの》等々、数々の作品を制作してきた。作品には残酷さと滑稽さ、煌びやかさと人間の闇が内包されている。
相反する異物同士を作品に同居させている私は「何」を描いているのだろうか。何を描いているかを端的に言うためにはどのような言葉がふさわしいのかを私は長い間考えていた。そして私が描いているものは「うきよ」であるという帰結点に至った。
儚くも残酷で憎くて愛おしい、汚泥と宝石が交互に顔を出す此の世界。それは享楽的で華やかな「浮世」であり苦しみに満ちた「憂世」でもある。私の描く全てのベルベットの作品、ドローイング、紙の作品は実態のない此の世界を写すための依代というメディアである。絢爛豪華なれど陰陰滅滅とした局面を潜める「うきよ」を提示する1人の画家として、私はこの度の展覧会に臨みたい。
谷原 菜摘子
タイトル | うきよの画家 “An Artist of the Floating World” |
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会期 | 2021年5月26日(水)〜6月6日(日)会期中無休 |
会場 | 上野の森美術館ギャラリー 台東区上野公園1-2 03-3833-4191 |
開廊時間 | 10:00〜17:00 (入館は30分前まで) |
協力 | 第一生命保険株式会社、The Jean Pigozzi Collection、渡辺一明 |
料金 | 入場無料 |
[対談企画] | |
ゲスト | 金島隆弘(ACKプログラムディレクター、京都芸術大学客員教授) |
開催日時 | 5月30日(日)14:00〜15:30 |
会場 | 上野の森美術館ギャラリー |
料金 | 無料・予約不要・先着25名まで着席 |
タイトル | 紙の上のお城 “A Castle on the Paper” |
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会期 | 2021年5月26日(火)〜6月20日(日)月曜休廊 |
会場 | MEM 渋谷区恵比寿1–18–4 NADiff A/P/A/R/T 3F. 03- 6459-3205 |
開廊時間 | 13:00〜19:00 |
協力 | 第一生命保険株式会社、The Jean Pigozzi Collection、渡辺一明 |
料金 | 入場無料 |