平成12年度新人賞
※プロフィールは受賞時の情報を掲載しております
東京造形大学造形学部美術学科修了。
10代で絵を描きだした頃「ポストもの派」のインスタレーションが大流行し、その影響もあり「版画は彫刻が平面になったもの」と意識するようになる。
大学で版画家の馬場檮男氏、原 健氏に師事し「版」という素材について学ぶ。
平成3年よりほぼ毎年、ギャラリー21+葉(平成3年:東京・銀座)、アートギャラリー・タピエス(平成4年:神戸)、ギャラリーポエム(平成5年、7年、9年:東京・吉祥寺)、ギャラリー219(平成8年:東京・目黒)、ガレリア・グラフィカbis(平成11年:東京・銀座)などで個展を開催。
グループ展では、「第59回日本版画協会展」(平成3年:東京都美術館、山口 源新人賞)、「六女人六色版画展」(平成3年:資生堂ザ・ギンザアートスペース)、「Seven Contemporary Japanese Print-artists」(平成9年:SNAP GALLERY・カナダ・エドモントン)、「日本の木版画1200年」(平成10年:町田市立国際版画美術館)などに出品。町田市立国際版画美術館の工房で、市民に広く開かれたワークショップの講師として指導にもあたっている。
最近の作品は、板目木版を使い、グワッシュ(不透明水彩絵具)で和紙に三原色を何度も刷り重ね、自分のイメージに近い色を出していくという技法をとる。版画は単に描かれた絵を写すものというより、版に塗られた絵具を紙に刷ることで、版の素材と水と紙の融合された新しい面が現れるように、質を変換する装置、三次元と二次元を行き来する装置と捉えている。
作家自身の身体と精神、時間の対話が繰り返し行われ、素材に込められた物質の持ち味が変容し、深みや重みが加わり、平面に定着されていくという制作の過程を大事にする。
作品の置かれた空間の中でのたたずまい、作品と空間との関わり合いも表現のうちにあると考える。
平成12年9月よりロンドンを拠点にして、ワークショップなどを通じて文化の交流を図ることを目的に研修。
そこには
中村 桂子
すべてのものはすべての始まりに、すべてのものはすべての終わりに帰結している。本当は大きな一本の道がそこには在るだけなのだ。長い時間の中でできてしまったたくさんの小道に、私もあっちこっちに首を突っ込んでは考えている。きっと多くの誰かも考えたはずの事を。
「普遍の棚」というものがあるのなら、手の届いた人は皆、その棚にひょいと手を伸ばしては取り上げたり、眺めたり、そしてまた置き去りにしてゆく。その繰り返しだ。
いつでも、どこでも。私は、私が最後まで責任を負うべき「存在」というものについて考える。
物には物の流儀があって、私たちよりもこの世ではるかに真実の現実に晒されている。合わせ鏡のように、その真実に私は取り上げた精神を滑り込ませたいと考える。
版画というシステムは、その中でなかなかにウィットに富んだ計らいをももつ、物と精神の架け橋だと思う。刻印されて永遠を掴んだ平面と、黒子のように精神を乗せてそこへ圧し出す版というもの。
そこには物語ではない空間も時間も存在する。私はそれらを注意深く抽出したいといつも願う。なぜなら、確乎とした「存在」となった精神がそこには隠されているからだ。そしてそれは、私よりももっと本当のことを計測している。
瞬間からどんどん遠ざかってゆく現在を、抱え続けて生きている。私が本当に計測したいものとは何なのだろうか。反復(同一)とずれ(差異)の中から浮かび上がるもの。生きる中で浮かび上がるもの。記録し続けなくてはいけない。
日時 | 平成16年1月19日(月) ~ 31日(土) |
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場所 | ガレリアグラフィカ |