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平成21年度新人賞

手塚 愛子 (てづか あいこ)

  • 受賞対象:現代美術
  • 研修地:ドイツ・ベルリン
  • 出身地:東京都出身 京都市在住

受賞者プロフィール

プロフィールは受賞時の情報を掲載しております

平成11年武蔵野美術大学油絵学科卒業。平成13年同大学大学院油絵コース修了後、平成17年京都市立芸術大学大学院美術研究科博士(後期)課程油画領域修了。博士号(美術)取得(博士論文「織りとしての絵画」)。戸谷成雄、宇佐美圭司、小清水漸、潮江宏三の諸氏に師事。
現在、京都市立芸術大学非常勤講師、吉備国際大学大学院非常勤講師。

絵画制作と並行して糸や布による作品制作を開始。絵画の構造的な思念を中心に置きながら制作を重ねるうちに絵画形式の中に「織構造」を見出すようになる。それは絵画が物質的な組成から見ても、歴史的文脈上の存在においても、「織られた」、層状になっている、ということである。刺繍の表裏を露呈させる作品や、既に織られた織物を解体、或いはその縦糸だけを取り出して見せるといった独自の手法による、絵画でも工芸でもない独特な世界感を持つ作品を制作、発表している。

平成16年ARTCOURT Gallery(大阪)、平成17年INAXギャラリー2(東京)にて個展。平成19年スパイラル・ワコールアートセンター(東京)にて個展「薄い膜、地下の森」を開催し、直径7mの巨大な刺繍作品を発表。同年ケンジタキギャリー(名古屋)にて個展、府中市美術館(東京)にて公開制作「気配の縫合 – 名前の前に」を行う。平成20年第一生命ギャラリー(東京)にて個展。グループ展は平成17年「VOCA展」(上野の森美術館)、平成18年「越後(岡崎市美術博物館)、「サイクルとリサイクル」(愛知県美術館)に出品し、平成20年に「MOTアニュアル2008 解きほぐすとき」(東京都現代美術館)にて川島織物セルコンと協同し大作を発表。同年「たねとしかけ」(群馬県立近代美術館)、所沢ビエンナーレ「引込線」(西武鉄道旧所沢車両工場跡)の他に、国際芸術センター青森のレジデンス「Tangent」に参加。

本財団助成による海外研修

本年11月から、自身の制作から生まれた問いとして、美術と工芸の分岐点を美術家として深く考究し、さらに古代の造形から現代までの変遷を見聞し視野を広げるためヨーロッパ各地を訪ねる。また変化の渦中であるベルリンを拠点に作品を制作発表することを目指し、さらなる作品展開につながるよう研鑽を積む。

これまでの主な受賞歴

2002京展 洋画部門 大賞受賞
2005VOCA展 佳作賞受賞

海外研修成果発表のご紹介

手塚 愛子 美術新人賞研修帰国記念 現代美術

五島記念文化賞美術新人賞海外研修成果発表展開催にあたって
手塚 愛子

私が五島記念文化賞美術新人賞を頂いたことをきっかけにロンドンに渡ったのが2010 年、その後ベルリンに拠点を移しましたが、ヨーロッパに来てから早くも10 年が経とうとしています。この度、その新人賞の海外研修成果発表展開催にあたって、12 年ぶりにスパイラルでの個展の機会をいただきました。スパイラルからKCI (京都服飾文化研究財団)とのご縁をいただき、スパイラルのキュレーター、加藤育子様から、「ジャポニズムの時代に焦点を当ててみたら、手塚作品との関連において面白いのではないか」というご助言をいただいたことで、この個展のためのプロジェクトが動き出しました。今回は大きく分けて4つの新作が発表されますが、以下に記すような経緯を持つ作品群には、その歴史的意味づけと、観者との架け橋の役割を受け持つ第三者の目が必要だという判断から、福岡市美術館学芸員の正路佐知子様に監修およびキュレーションをお願いしました。

新作の一つは、KCIのコレクションある薩摩ボタンをモチーフにした織物です。薩摩ボタンとは、ジャポニズムの時代に西洋の市場に向けて作られた、日本風の絵が描かれた陶製のボタンです。当時の日本ではまだ着物を着ていてボタンは必要なかったのにも拘わらず、そこに日本風の絵を書き込むと西洋人が喜び、すなわち西洋が求める日本を演じることで、実際の日本の姿とはズレが生じていくということ、そこにはお互いの打算とすれ違いがあったことと思います。このことは、ヨーロッパで暮らす私にとって、現在も続く葛藤と重ねられる部分を感じました。

その後、皇室で初めて和装から洋装に切り替える決断をした、昭憲皇太后がまとったという深緑色の大礼服のオマージュとして、皇后の当時の気持ちを表した和歌を織り込んだ織物を作りました。

他には、京都の川島織物セルコン様に製作していただいた織物も展示されます。元となった織物は、1905年から1925年頃に当時の川島織物が手織りで製作したもので、現在はKCI所蔵になっています。この織物を、現代の川島織物に出来る限りオリジナルに近い形で織り直していただく、というプロジェクトです。

明治から少し離れますが、オランダのアムステルダム国立美術館のキュレーターとのコラボレーション作品として、同館が所蔵するレンブラントの絵画「夜警」と、同時代にオランダから日本に持ち込まれた更紗の布をモチーフとした織物作品も制作しました。

もう戻れないけれど、現在の私たちの多くを決定づけてしまった明治。美子皇后の人生に触れた時、ふいに涙が溢れる瞬間がありました。美子皇后が洋装に切り替えたという決断の背後にあったもの、当時の多くの外国の大使が美子皇后の最後の和装姿は幻想的だったと語ったこと。それらが入り混じり、思い出せない何かに溢れた涙とその温度が、私にこれらの作品を作らせました。もしも9年前、私が外国に渡らなかったら、この作品群は生まれなかったことでしょう。海外で活動するその試行錯誤のなかで生まれた感情であり、この度日本での発表の機会を与えられたことによって、完成した作品群です。本展開催に当たり助成をいただきました東急財団には、世界に出て活動するための鍵を私に与えてくださったこと、また、その成果を日本のみなさまに見ていただくための支援をしてくださったことに、心より感謝申し上げます。

2019年8月1日ベルリンにて

タイトルDear Oblivion  ―親愛なる忘却へ―
会期2019年9月4日(水)~18日(水) 11:00~20:00
休廊会期中無休・入場無料
会場スパイラルガーデン(東京)
港区南青山5-6-23(スパイラル1F)
タイトルFlowery Obscurity  ―華の闇―
会期2019年9月7日(土)~28日(土) 12:00~19:00
休廊日・月曜、祝日
会場MA2Gallery(東京)
渋谷区恵比寿3-3-8

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