これからの多摩川およびその流域の環境保全・改善の礎となる活動や研究を支援します。

池田 駿介
東京工業大学(現:東京科学大学) 名誉教授工学博士。東京大学土木工学科を卒業後、同大学院を経て、東京工業大学(現:東京科学大学)・埼玉大学に奉職。
日本学術会議会員(第3部幹事)、日本流体力学会会長、日本工学会副会長、科学技術・学術審議会臨時委員、中央環境審議会特別委員・臨時委員、(公財)河川財団評議員会長などを歴任。
専門は水理学、水域環境学、技術倫理。
2023年度に「多摩川の美しい未来づくり助成」が新たな構想の下発足し、今年度は3年目を迎えました。この助成では、環境保全・改善をより効果的に進めるために、実効性が上がる研究・活動助成プログラムが提供されています。このプログラムでは、旧来の研究・活動助成では採択がされにくい、新しく斬新で複合的な視点での環境改善、市民との協働、社会への研究成果の還元、が重要視されています。
今年度は、3つのコースの研究助成を行いました。すなわち、(A)民間非営利団体コース、(B)研究者・研究機関コース、(C)民間非営利団体・研究機関の協働コース、です。その結果、Aコース5件、Bコース11件、Cコース2件、の新規応募がありました。昨年に比べて申請数が増加したものの、Cコースの応募が少なかったのは残念でした。
選考は、委員の利益相反について確認し、関係すると判断される申請については審査に加わらないこととし、まず1次選考として書類審査を行い、①活動や研究の遂行能力、②環境共生社会実現への効果、③成果と社会還元、④実現可能性、の4つの評価軸から、各評価項目について採点し、総合点を算出しました。また、各委員からの評価コメントを付け、選考委員会での議論の参考としました。
以上のような厳正な選考の結果、Aコース4件、Bコース7件が1次選考を通過しました。2次選考では、さらに質問したい項目や、意欲・能力、研究・活動費の使途などを確認するためにWeb面接を各15分間実施しました。その結果、1次選考を通過した申請11件は全て採択候補に選ばれましたが、付帯条件が付いたものが1件、確認を要するものが2件ありました。
継続2年目の申請は6件あり、まず選考委員による書類審査を行った結果、4件が承認されました。残る2件については確認すべき点があったためWeb面接を実施し、1件はWeb面接にて、1件はWeb面接後のさらなる確認ののち、継続が承認されました。継続3年目の申請は8件で、まず選考委員による書類審査を行い、6件が承認されました。1件は研究・活動内容や成果が不十分であることから継続不承認となりました。残る1件についてはWeb面接を行ったうえで継続が承認されました。(その後、1件は助成を辞退されています)
新規申請では、Aコースでは、従来から長期間継続してきた野鳥や生物生息のデータベース化に関する調査研究活動を非営利団体が高度化・一般化するなど、意欲的な研究がありました。本年度に新設されたBコースの研究内容は多彩でした。従来から行われてきた生物の調査などに加えて、砂州の動態と環境との関連に関する研究、溶存有機物の光化学的浄化作用の研究など、従来なかった分野の研究が申請されたことが挙げられます。全体として、本年度は質量ともに研究助成の充実が実感できました。

石川 幹子
東京大学 名誉教授東京大学農学部卒業、ハーバード大学デザイン学部大学院卒業。東京大学大学院農学系研究科博士課程修了。農学博士、技術士(建設部門、都市および地方計画)。工学院大学建築学科特任教授、慶應義塾大学政策・メディア研究科教授、東京大学大学院工学系研究科教授、中央大学理工学部人間総合理工学科教授を経て、現在、中央大学研究開発機構・機構教授。
日本学術会議環境学委員会委員長、東京都公園審議会委員、東京都都市計画審議会委員、川崎市環境審議会委員など、世界および全国約200の市町村の水と緑の計画・設計に携わる。
ブータン王国ロイヤルパーク設計、新宿御苑再生設計、岐阜県各務原市水と緑の回廊計画、東日本大震災復興(宮城県岩沼市)などを担当。
本助成は持続可能な環境共生社会の形成に向けて、市民の行動につなげていくことを目標とするもので、主旨に共感された数多くの提案が寄せられました。
第一は、蓄積されたデータを活用し、変容する地域の実態を明らかにし、行動指針につなげようとする取り組みです(カワセミ、オオタカ等)。
第二は、生物多様性に対するチャレンジです。自然観察プラットフォームの活用、河口干潟の調査、野生メダカの減少などに関する研究等です。
第三は、これまでにないユニークな研究で、河川生態系を支える微生物機能調査、溶存有機物の光学的反応性の解明等です。
第四は、頻発している洪水や浸水被害に対し、「見えない川」を顕在化させ、小規模・分散型緑地のネットワークの形成により、水循環そのものの変革を目指す新しい提案です。
いずれも、地球環境の変容という課題に対し、確実な「視座」を提示し、一歩一歩、進めていこうとする、大きな「志」に共感できる選考でした。

原 美紀
認定NPO法人 びーのびーの 副理事長・事務局長立教大学社会学部社会学科卒業後、株式会社トーハン入社。2004年よりNPO法人びーのびーの入職。2006年より港北区地域子育て支援拠点どろっぷの施設長に着任。横浜市道路局バリアフリー検討協議会委員、港北区地域福祉保健計画策定委員、港北区社会福祉協議会ボランティア運営センター委員、神奈川県立港北高校学校運営協議会委員、NPO法人アクションポート横浜理事、NPO法人セカンドリーグ神奈川理事、港北区民生委員児童委員、東急子ども応援プログラム選考委員などを歴任。著書に、「おやこの広場びーのびーの 2003」ミネルヴァ書房など。
今年度から初めて選考委員として重責な場に臨ませていただきました。32件の応募書類の膨大なファイルを手に取り、新規団体も継続団体もどれを取っても全ての記載内容の行間に込められた熱量を感じ、ファイルの厚みだけでない重みを感じました。
書き込まれたテーマも研究、調査などの対象物、エリア設定、研究手法など、非常に多岐にわたり、深く広い分野におよぶ申請書でしたが、一つ一つを厳正に審査いたしました。そして、助成内容を読み込むうちに、そこには玉石の未知の世界があり、それぞれの団体や個人の関心事や課題意識や動機付け、改善提案への意欲的な表現など、研究対象に寄せる思いに魅せられ、気が付くと一気に完読できた自分に驚かされました。
選考にあたっては先達の委員の方々からの質問や見識も勉強になりました。2次選考時には応募者の方々とのオンライン上の対話から、より必要不可欠なニーズ、ストーリー性に多摩川流域という自然界が放つ研究者(団体)を引き寄せる力を再認識した機会でした。

古瀬 繁範
NPO法人 地球と未来の環境基金 理事長・事務局長大学卒業後、翻訳会社、(社)日本ブラジル交流協会サンパウロ事務局、南米銀行広報部での勤務を経たのち、1992年環境NGO「日本リサイクル運動市民の会」入会。エコグッズの販促・営業、非木材紙事業の開発(原料輸入、営業、販促など)、総務人事を担当。2000年NPO法人地球と未来の環境基金設立に参画、現在同理事長・事務局長。中小企業やNPO法人、社団・財団法人等のCSRや経営の指導などを行う。
今年度も昨年に増して多くのご応募を頂き、心より御礼申し上げます。
本助成は、助成対象を「研究者・研究機関」と「民間非営利団体」としています。それは複雑化、多様化する環境問題に対し、人々の環境意識の向上や行動変容につながる成果を生み出したいと願うからです。そのためには、研究者・研究機関とNPO等の活動団体がより一層連携、協働していくことが不可欠だと考えています。
毎年ながら感銘を受けるのは、身近にあり重要な、しかしともすれば注目されにくいテーマでの研究や活動が多いことです。他方、研究者・研究機関であれば、もう少し市民への発信やアウトリーチがあるとより成果が波及するのにと思うこと、NPO等だと、もう少し科学的なエビデンスを得て活動されるとより専門性が高まるのにと思うことが散見されました。
その観点では、研究者と活動団体の皆さまが交流し、情報交換する機会が今後本助成の中で生まれて来ればよいなと考えています。混迷期、動乱期に入った世界情勢の中、環境問題は人類の生存に関わる大きなテーマです。そうした時代背景の中で、多摩川の美しい未来を創るため、地域に根差す課題解決に取り組む研究や活動は、まさに草の根で皮膚感覚に富んだ取り組みです。ぜひ良い成果を生み出し、社会へ発信され、人々の行動変容につながっていくことを選考委員の一人として願ってやみません。

虫明 晋哉
東急建設株式会社 土木事業本部技術統括部 環境技術部長東京農業大学農学部卒業後、1993年東急建設株式会社入社。2002年一般財団法人 日本水土総合研究所出向。2006年東急建設技術本部土木エンジニアリング部地盤環境グループへ復帰、2020年より土木事業本部技術統括部 環境技術部長、2022年より(一社)土壌環境センター理事に就任。2024年に「公園で生き物と触れ合い、子どもたちへ自然の大切さを伝える都立青山公園の生き物観察会12年継続開催」にて第59回東京都公園協会賞 奨励賞を受賞。
「多摩川の美しい未来づくり」について、今年度も、多様な主体から多くのご応募を頂きました。ご提案内容の分野も多岐にわたり、どれも熱意が込められた素晴らしいもので、今回から選考に参加させていただいた私自身にとって、大変感心させられ、勉強になるものばかりでした。
また、本助成プログラムは3年目を迎えるということで、過年度より取り組まれている継続事業についても、実際の研究、活動を見学させていただきましたが、いずれの事業も真摯に取り組まれており、計画に従って着実に成果を上げていることも確認することができました。
年々、気候変動、生物多様性保全など環境に対する問題が深刻化し、重要視されていく中で、この「多摩川の美しい未来づくり」助成事業を通じて、皆さまの研究、活動の取り組みの成果が社会実装されることで実を結び、いずれは、全国の河川流域にも共有展開されることを期待しています。