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東急財団 2025年度多摩川の美しい未来づくり助成

これからの多摩川およびその流域の環境保全・改善の礎となる活動や研究を支援します。

選考委員長の選後総評と選考委員の所感

2025年度助成対象事業

  • 委員長

  • 委員

    • 石川 幹子東京大学 名誉教授
    • 遠藤 修東急建設株式会社 土木事業本部 技術顧問
    • 古瀬 繁範NPO法人 地球と未来の環境基金 理事長/事務局長
  • 選考委員長の選後総評

    • 池田 駿介

      池田 駿介

      東京科学大学 名誉教授工学博士。東京大学土木工学科を卒業後、同大学院を経て、東京工業大学(現:東京科学大学)・埼玉大学に奉職。
      日本学術会議会員(第3部幹事)、日本流体力学会会長、日本工学会副会長、科学技術・学術審議会臨時委員、中央環境審議会特別委員・臨時委員、(公財)河川財団評議員会長などを歴任。専門は水理学、水域環境学、技術倫理。

      2024年度に「多摩川の美しい未来づくり助成」が新たな構想の下スタートし、2年目を迎えました。この助成では、環境保全・改善をより効果的に進めるために、実効性が上がる研究・活動助成プログラムが用意されています。すなわち、すでに一定の科学的根拠を有しており、初年度から本格的に研究・活動を行う「通常コース」と、初年度には準備的な活動に取り組み、2年目以降に本格化する「ステップアップコース」です。また、このプログラムでは、旧来の研究・活動助成では採択がされにくい、新しい斬新な観点での環境改善や複合的な観点からの研究・活動についても助成の対象にしています。
      2025年度は、通常コース6件、ステップアップコース4件の新規応募がありました。選考は、まず委員の利益相反がないことを確認して、1次審査として書類審査を行い、①活動や研究の遂行能力、②環境共生社会実現への効果、③成果と社会還元、④実現可能性、の4つの評価軸から、各評価項目について採点し、総合点を算出しました。また、各委員からの評価コメントを付け、選考委員会での議論の参考としました。以上のような厳正な選考の結果、通常コース4件、ステップアップコース2件が1次選考を通過しました。2次選考では、申請内容でさらに質問したい項目や、意欲・能力、研究費の使途などを確認するためにWeb面接を各15分間実施しました。その結果、1次選考を通過した申請6件は全て採択候補に選ばれました。
      継続2年目の申請は8件ありましたが、選考委員による書類審査を行い、確認したい点がある3件についてWeb面接を実施しました。その結果、8件全てが継続を承認されました。
      申請内容を見てみると、魚類や植生に関する調査研究活動など、伝統的な課題に加えて、デジタルツインにより河川の自然体験を身近にする研究、心理的な体験により環境保全意識を高めようとする研究、あるいは流域治水に関連して離散的な小緑地の効果を明らかにしようとする研究など、新しい息吹を感じました。歴史的な観点からの研究申請もありましたが、申請内容が著書の発刊が目的であり、本助成の趣旨と一致せず、採択となりませんでした。しかし、多摩川の治水の歴史を流域住民に知っていただくことは重要であり、今後本助成の趣旨に合った申請が望まれます。

  • 選考委員の所感

    • 石川 幹子

      石川 幹子

      東京大学 名誉教授東京大学農学部卒業、ハーバード大学デザイン学部大学院卒業。東京大学大学院農学系研究科博士課程修了。農学博士、技術士(建設部門、都市および地方計画)。工学院大学建築学科特任教授、慶應義塾大学政策・メディア研究科教授、東京大学大学院工学系研究科教授、中央大学理工学部人間総合理工学科教授を経て、現在、中央大学研究開発機構・機構教授。
      日本学術会議環境学委員会委員長、東京都公園審議会委員、東京都都市計画審議会委員、川崎市環境審議会委員など、世界および全国約200の市町村の水と緑の計画・設計に携わる。
      ブータン王国ロイヤルパーク設計、新宿御苑再生設計、岐阜県各務原市水と緑の回廊計画、東日本大震災復興(宮城県岩沼市)などを担当。

      本助成事業は、科学的根拠に基づき、学問領域を超えて「行動する市民」を支える活動の支援を目標としています。持続可能な世界に向けて、「誰一人取り残されない」という課題に対しては、ビッグデータを活用し、新たな環境プログラムを開発するプロジェクトが採択されました。「見えない流域」を、微地形を踏まえて構築し、小規模・分散型の流域システムを構築する試みは、「一人一人の市民の参加と実践を可能とする」取り組みです。「白点病の発生状況調査」や、「浸水帯における保全生態学的研究」は、大きな社会貢献が期待されます。二ホンウナギが回遊するマリアナ海溝までを視野にいれた研究は、子どもたちに大きな夢を与えるものです。「Awe(畏敬)」の研究は、これまで行われたことのない根源的研究となります。このように、今年度「未知への挑戦をする開拓者精神」の豊かなプロジェクトを採択することができたことは、大きな喜びでした。

    • 遠藤 修

      遠藤 修

      東急建設株式会社 土木事業本部 技術顧問技術士(総合技術監理部門、建設部門)、東北大学大学院(修士)修了、1984年東急建設株式会社入社。技術研究所、土木技術・設計部門、2008年環境技術部長、2020年執行役員技術研究所長を経て、現在、土木事業本部 技術顧問。専門分野は、地盤環境、雨水利用、生物多様性、グリーンインフラ、環境保全、地盤防災・減災。

      2024年度の選考でも、対象とする分野が多岐にわたっていると思いましたが、2025年度はさらにさまざまな分野からのご提案を頂きました。選考を行う中で新たな気付きもありました。特に、自然に対する畏敬の念の効果、デジタルツインを利用した自然体験などの研究からは、「美しい未来づくり」に向けて、多摩川とその流域が高いポテンシャルを持つことを感じました。
      2024年度の事業については、実際の活動も見学させていただきました。いずれの事業も真摯に取り組まれており、目標に向けて着実に成果を上げていることが確認できました。
      本助成事業では、環境保全・改善に関する活動、研究が、直接的・間接的に市民の環境意識向上や行動変容につなげることを目指しています。提案された活動・研究の分野が多岐にわたっていることは、より多くの市民が環境保全・改善に関心を持つ機会が増え、本助成事業の目標達成に大きく貢献できるものと期待しております。

    • 古瀬 繁範

      古瀬 繁範

      NPO法人 地球と未来の環境基金 理事長/事務局長大学卒業後、翻訳会社、(社)日本ブラジル交流協会サンパウロ事務局、南米銀行広報部での勤務を経て、1992年環境NGO 日本リサイクル運動市民の会へ入会。エコグッズの販促・営業、非木材紙事業の開発(原料輸入、営業、販促など)、総務人事を担当。2000年NPO法人 地球と未来の環境基金設立に参画、現在同理事長/事務局長。中小企業やNPO法人、社団・財団法人などのCSRや経営の指導などを行う。

      この度は本助成にご応募を頂き誠にありがとうございました。今年度も多くの熱意溢れるご提案を頂きましたことに大変な感銘を受け、心より御礼申し上げます。
      今年度の申請案件では、IoT技術を活用した取り組みや、歴史・精神世界の分野からアプローチしようとする取り組みなど、非常にユニークな視点を持った研究や活動が多く、昨年と同様に新たな発見がありました。
      本助成プログラムは2年目を迎えました。プログラムとして大切にしている視点は、科学的根拠(エビデンス)、人々の環境意識の向上や行動変容です。研究者・研究機関については、成果をどう社会へ還元しようとしているのか、NPOなどとの連携はどうか、活動団体については一定のエビデンスに基づいた提案であるかどうかという観点が採否を分けるポイントであったと思います。
      日本社会は人口減少、少子高齢化などのマクロ環境が取り巻く中で、環境問題もますます複雑化、多様化しています。問題の改善・解決に向けては、多様な主体が連携し、対話を重ね、トライアンドエラーを繰り返しながら、現場・現実に寄り添った取り組みが求められていると考えます。採択された皆さまは、ぜひ成果を広く社会へ発信し、多くの人々とつながっていっていただければと祈念しています。