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東急財団 2024年度多摩川の美しい未来づくり助成

これからの多摩川およびその流域の環境保全・改善の礎となる活動や研究を支援します。

選考委員長の選後総評と選考委員の所感

2024年度助成対象事業

  • 委員長

  • 委員

    • 石川 幹子東京大学 名誉教授
    • 今村 和志NPO法人 荒川クリーンエイド・フォーラム 理事/事務局長
    • 遠藤 修東急建設株式会社 土木事業本部 技術顧問
    • 古瀬 繁範NPO法人 地球と未来の環境基金 理事長/事務局長
  • 選考委員長の選後総評

    • 池田 駿介

      池田 駿介

      東京工業大学 名誉教授工学博士。東京大学土木工学科を卒業後、同大学院を経て、東京工業大学・埼玉大学に奉職。
      日本学術会議会員(第3部幹事)、日本流体力学会会長、日本工学会副会長、科学技術・学術審議会臨時委員、中央環境審議会特別委員・臨時委員、(公財)河川財団評議員会長などを歴任。専門は水理学、水域環境学、技術倫理。

      これまで、研究者・研究機関は学術研究の成果を論文にまとめること、民間非営利団体では活動すること自体が中心で、両者の関係性は希薄でした。東急財団では2024年に設立50周年を迎えるにあたり、多摩川および流域の環境保全・改善をより効果的にするために両者の協働を深め、実効性が高まることを目的とした研究・活動助成プログラムを創設しました。このプログラムでは、すでに一定の科学的根拠を持ち初年度から本格的に研究・活動を行う「通常コース」と、場合によっては協働を開始するには時間がかかることを念頭に置いて、初年度には準備的な活動に取り組み、2年目以降に本格化する「ステップアップコース」の2つの助成コースを設けました。
      このように、他では見られない形の研究・活動助成プログラムを創設したことから申請数が伸びないのではないか、と懸念しましたが、22件の応募がありました。そのうち、5件については申請書類の不備など、応募要件を満たしていないため選考対象外となり、「研究者・研究機関」の9件、「民間非営利団体」の8件が選考対象となりました。

      選考にあたっては、選考委員会において冒頭に述べた選考方針を確認し、①研究遂行能力、②環境共生社会実現への効果、③成果と社会還元、④実現可能性 の4つの評価軸から、委員の利益相反がないことを確認して厳正な選考を行い、11件が1次選考を通過しました。旧「とうきゅう環境財団(とうきゅう環境浄化財団)」の研究・活動助成では書類審査のみでしたが、今回創設された研究・活動助成では、申請内容、意欲・能力、研究費の使途などを確認するためにWeb面接による2次選考を各15分間実施しました。その結果、10件が採択候補に選ばれました。その内訳は、「研究者・研究機関」が6件(内、ステップアップコース2件)、「民間非営利団体」が4件(内、ステップアップコース2件)です。
      採択候補となった研究・事業の内容は、新しい解析手法を高校生に教え生態系を学ぶ人材育成(1件)、動植物や農業に関する生態系(4件)、マイクロプラスチックやゴミの流出防止・清掃(2件)、環境芸術・デザイン(1件)、地域自然史(1件)、水質(1件)と多様性に富んでいます。不採択になったものには、研究や活動のみに主眼が置かれたもの、活動により遺伝子かく乱が危惧されるもの、これまで得られたデータベースを整理するものなどがあり、本研究・活動助成の趣旨にそぐわないものと判断されました。

      今後、「研究者・研究機関」では、研究成果を社会に還元すること、民間非営利団体では科学的知見を活動に反映させることに留意していただき、次年度以降の応募を期待しています。

  • 選考委員の所感

    • 石川 幹子

      石川 幹子

      東京大学 名誉教授東京大学農学部卒業、ハーバード大学デザイン学部大学院卒業。東京大学大学院農学系研究科博士課程修了。農学博士、技術士(建設部門、都市および地方計画)。工学院大学建築学科特任教授、慶應義塾大学政策・メディア研究科教授、東京大学大学院工学系研究科教授、中央大学理工学部人間総合理工学科教授を経て、現在、中央大学研究開発機構・機構教授。
      日本学術会議環境学委員会委員長、東京都公園審議会委員、東京都都市計画審議会委員、川崎市環境審議会委員など、世界および全国約200の市町村の水と緑の計画・設計に携わる。
      ブータン王国ロイヤルパーク設計、新宿御苑再生設計、岐阜県各務原市水と緑の回廊計画、東日本大震災復興(宮城県岩沼市)などを担当。

      「多摩川の美しい未来」について、地域に根差して活動をしておられる方々の熱意と夢が、生き生きと提案されていることが、今回の最も大きな特色でした。研究にとどまらず地域や住民の皆さんへの発信、NPOとの協働など、新しい地域貢献への扉が開かれた助成となりました。
      水辺の生態系の保全、水質、化石など、基本的な手堅い研究に加えて、環境DNA解析技術により生態系を学ぶ研究などは斬新なものであり、若い世代への発信は大きな力になると考えます。環境芸術から多摩川の風土について制作などを通して学ぶ取り組みは、地域の財産である伝統と可能性を新しい視点から発掘する試みとなるものと期待しております。マイクロプラスチック除去の研究、「川ゴミ」に着目して流域を考える研究、農と生物多様性、鳥由来の感染症に関する研究など、多彩な研究と活動を採択することができたことは、審査員として望外の喜びでした。
      それぞれが時代を切り開いてゆくチャレンジ精神にあふれたものであり、これからの研究活動に期待いたします。

    • 今村 和志

      今村 和志

      NPO法人 荒川クリーンエイド・フォーラム 理事/事務局長博士(工学)。専門は河川や海岸の生態工学。遠州灘での環境活動をきっかけに海ごみ問題に関心を持ち、2016年NPO法人 荒川クリーンエイド・フォーラムにスタッフとして入職。
      2017年5月、理事/事務局長就任。現在に至る。

      多摩川の美しい未来づくり助成の審査を通じて、数々の素晴らしい提案に接することができ、申請者の皆さまの多摩川流域の環境に対する貢献意欲を感じました。持続可能性と革新性を兼ね備えたプロジェクトも複数件あり、事業開始前から社会への波及効果を期待しています。
      審査においては、申請者の経歴や実績、論拠、計画の実現可能性、助成事業が及ぼす長期的な影響などを総合的に検討しました。今回採択された提案は、環境問題に対する熱意と専門知識が高い水準で結び付いており、当該助成事業が期待している要件を満たしていると確信しています。
      また今回、研究者とNPOの両者の申請書を拝見して思ったのは申請書執筆に関する経験の差はあれども、両者に大きな隔たりはないということです。学問の追求と社会的ニーズへの対処はお互いがそれほど遠い関係ではないのかもしれません。これから助成事業を遂行する上でさまざまな困難に直面することもあると思いますが、無事に成し遂げてください。
      最後に、私自身も審査プロセスを通じて、貴重な経験をさせていただいたことに深く感謝いたします。

    • 遠藤 修

      遠藤 修

      東急建設株式会社 土木事業本部 技術顧問技術士(総合技術監理部門、建設部門)、東北大学大学院(修士)修了、1984年東急建設株式会社入社。技術研究所、土木技術・設計部門、2008年環境技術部長、2020年執行役員技術研究所長を経て、現在、土木事業本部 技術顧問。専門分野は、地盤環境、雨水利用、生物多様性、グリーンインフラ、環境保全、地盤防災・減災。

      「多摩川の美しい未来づくり」について、多くの研究者・研究機関、民間非営利団体の皆さまから頂いたご提案は、対象分野も多岐にわたり、いずれも非常に興味深い貴重なものでした。選考では、特に科学的根拠に基づき実行性があるか、地域住民の環境意識の向上など、社会実装の可能性があるかについて、評価させていただきました。
      選考を通じて感じたことは、一部の団体、例えば研究者・研究機関では研究成果を社会に還元する方法について、また民間非営利団体では事業について学術的根拠を得たいなどのご要望があることです。このようないわゆるシーズとニーズのマッチングについても今後取り組んでいけたら良いと思います。
      多摩川は、源流域、上・中・下流域、各支流域など、広範囲な流域を有しています。この多摩川において、環境保全についての種々な研究成果が社会実装され、他の河川流域の好事例となり、ひいてはネイチャーポジティブの取り組みに発展していくことを期待します。

    • 古瀬 繁範

      古瀬 繁範

      NPO法人 地球と未来の環境基金 理事長/事務局長大学卒業後、翻訳会社、(社)日本ブラジル交流協会サンパウロ事務局、南米銀行広報部での勤務を経て、1992年環境NGO 日本リサイクル運動市民の会へ入会。エコグッズの販促・営業、非木材紙事業の開発(原料輸入、営業、販促など)、総務人事を担当。2000年NPO法人 地球と未来の環境基金設立に参画、現在同理事長/事務局長。中小企業やNPO法人、社団・財団法人などのCSRや経営の指導などを行う。

      この度は本助成にご応募いただき誠にありがとうございました。皆さまからの真摯な申請内容を拝読し、私自身も大変勉強になる事柄が多く感銘を受けました。
      応募要項で示されている通り、本助成では科学的根拠(エビデンス)や、人々の環境意識の向上や行動変容という視点を大切にしています。審査の中でとりわけ重視したのは、研究者・研究機関については、研究成果をいかに社会へ還元しようとしているか、NPOなどとの連携はどうか、活動団体については一定のエビデンスに基づいた提案であるかという点です。
      NPO法の施行からはや四半世紀。環境問題も複雑化、多様化し、研究者の皆さま、活動団体の皆さまに対する社会からの期待水準は一層高まっていると思います。すなわち皆さまの取り組みに対して、より社会実装に資する成果が求められていると考えています。ぜひとも社会の負託に応え得るような、キラリと光る成果を期待しています。